新米になる
嫁がうれしそうなのは、今日から我が家のごはんは新米になるからだ。
「米なんて山盛りで、少し固めに炊いて、ワシワシ食えればそれでよいではないか」というオイとは対照的に米にこだわるのが嫁なわけだ。
米はもみがらが付いたまま購入してきて(オイ祖母からである)炊飯前にいちいち精米するのが常であり、その自家製精米機に7号の米を入れ、ガリガリと騒音を立てながら毎日精米するのである。
自家製精米機は安価なコーヒーメーカーのような姿をしており、作動させるといちいち必要以上にウルサイ。 なので精米中はテレビなんか見ていられない。 嫁が精米すると必ずオイと子供らからクレームがつくのはそのためである。 しかし、自家製精米機は、糠床の素である『糠(ぬか)』を供給してくれるものであるからして、文句ばかりいってはいられない。 自家製精米機を使用しなければ、美味しいぬか漬けを食えないというわけ。
しかし、近頃事情は少し変わってきた。 オイの息子4歳は、米を大量に消費するようになったのである。 米の減りが日に日に早くなってゆく。 息子の食う量がジリジリと増えてきているのだ。 なので、朝精米しても、また夕飯前には精米しなければならぬという状況になった。 これはさすがに面倒くさいし、騒音にも一日に二度耐えねばならぬし、ぬか床用のヌカもある程度ストックができている。 家庭での精米に限界がきたのである。
車に米一俵を積み、自動精米機に向かう。 小さなプレハブ風の建物の中に、デカい精米機が据え付けてあり、300円を入れると30キロの米を精米できるようになっている。 お金を入れ、玄米を全部投入すると、米を精米するだけにしてはやや大げさな、ファンの回転し始める音がする。 精米加減は選べるようになっているが、嫁の独断と偏見で一番白く仕上がる『上白』を選ぶ。 次の瞬間「ジャララー」と精米されたお米が排出されてくる。 米を入れてきた袋を排出口にあてがう。
一俵の米だと、精米するには5、6分かかるハズ。 しばらく椅子に腰掛けてボーっとしている。 「ガラガラ」と、精米所の戸が開き、おばさんが入ってきた。 下げ袋には米が入っている。 只今精米中のオイ米を覗き込み、無言で立ち去る。 きっと、ココの常連さんなのだろう。
いつのまにか精米所の周囲には、スズメの大群が押しかけており、精米中にこぼれた米を狙っているのは間違いなさそうだ。 無人になった精米所内の床に落ちた米をチュンチュンやるという魂胆だろう。 近所の有志が設置した様子のホウキとチリトが、床に散ったお米は掃除するよう注意書きされた立て札の横にかけてある。 となりには、汚れたお米の入ったカンが置いてある。
精米所の隅にたまっていた米を集めて、ポイッとスズメの群れに投げてみると、ものすごい勢いでスズメが集まってくる。 食べつくしてしまうと、すぐさま元の場所に戻る。 面白かったので、また精米所に散らばるお米を集めてスズメに投げる。 ワッとスズメが集まる。 繰り返すうちに、すっかり精米所の床はキレイになった。
おっと、精米中だということを忘れていた。 精米はすでに終わっており、精米機の排出口にはピカピカしたお米が山になっていた。