クジラ、ミンクかナガスか?
世の中には人を虜にする珍味がごまんとある。
昔々、鮭皮大名なる人物がいたそうだが、その大名曰く、「鮭の皮は薄くて少ない。 もっと鮭の皮を食いたい。 鮭の皮ならば丼で何杯でも食えるぞワシは。 フォッフォッフォ。」
というほど鮭の皮が好きだったのだそうな。
似たような話はほかにも沢山ありそうではあるが、とにかくある食べ物がすごく美味しくて、好きなので、もっと沢山食いたいという願望の結果、このような大げさな話になってくるわけだ。
オイの周囲にも、こんな人がいる。
オレはね、さんまのハラワタだったらね、丼3杯は食えるね。 もうね、サンマ本体はさておきワタを愛しているわけよ。 なんとかしてさ、サンマのハラワタを、フォアグラみたいに肥大させることはできないものかね。 丼3杯は食えるぞしかし。
なんて熱く語る。
たしかにサンマのハラワタも、鮭の皮もウマイ。 オイも大好きだ。 しかし、丼一杯は食えない。 食いたくない。 想像しただけでウンザリである。 でも多少大げさに言ってしまう気持ちもわかる。 オイにもサンマのハラワタや鮭の皮程度に愛して止まない食材はいくつかあるわけだ。
そのひとつが、鯨。
大分上の世代の方々は、「何クジラなんてモノ珍しいもんじゃねえ、そんなモンおまえ、給食で嫌っちゅう程食ってたぞ。」
などとおっしゃるが、こっちにとっては、物心ついたときは、大変貴重な食い物になっていたわけで。 どっちかっていうと、毎日少しでもいいので鯨は食べたい。 でも丼一杯はいらないかな。
先日数人で飲んでいる席で、クジラ議論で盛り上がった。
オイたち数人が、「グジラっつったらやっぱオノミでしょ、いやいや通はやっぱりヒャクヒロでし。 なにをいうか貴様、サエズリに決まってんだろ!」なんて騒いでいたところ、それを遠くで眺めていたひとりがこう言う。
「クジラの各部位は、ともかく。 ミンククジラよりもやっぱナガスの肉が美味しいんだよね。」ボソリとつぶやく。
この問題発言が、このクジラ論議をさらに過熱させる原因になった。
「えっ、食用のクジラに種類のあるとね。」なんてノンキは発言をオイがすると、そのこだわり発言氏は、「オレはナガス以外は食わない。」なんていう。 そういわれると気になってしょうがないのがオイなわけで、ちょっと詳しくクジラについて尋ねてみようか。
としているところにカミツイテきたのが、K氏で、「それってホント? だってネットで見てもさ、ミンククジラ以外売ってる店みたことがないよ。 それにさ、シロナガスクジラって獲鯨禁止なんじゃないの? そもそも今我々が食っている鯨肉は、調査捕鯨で獲られたものに限るわけでしょう。」と、まくしたてる。
よーしそれならば、実際鯨屋さんに聞いてみようではないかという話になり、電話してみた。 するとやはり、白ナガス鯨の肉のほうが美味しいのだそうな。 でも絶対にそうだというはけではなく、その鯨肉の状態にもよるのだとか。
この一件から、鯨が食いたくて仕方がなくなり、テレビから「ロハス」と聞こえてくると、それが「ナガス」と聞こえるように思えてならないという禁断症状にまで陥り、お正月まで鯨は食べまいとガマンしていたわけではあるが、颯爽と鯨を買いにいきつけの魚屋まで足を運んだのである。
「兄やん、鯨ちょうだいよクジラ。」というと、とっておきのがあるのだという。 それがTOPの写真、クジラの切り落としだったわけだ。
クジラを湯がいて商品にする際に、体裁を整えるため余分なところをカットするのだという。 そのカットされた部分を集めたものが、このクジラの切り落としなわけだ。 見た目は悪いかもしれないが、これはオイの大好きな畝須である。 普段ケチケチ超薄切りにして食っている畝須が、コロコロ固まりでパンパンにパック詰されている様はまさにオイにとっては宝石箱。 速攻買ったわけである。 (畝須を普段こうやって食う)
しかもこのクジラの切り落としがまたやけに安いときた。 こりゃ、定期購入を申し込まねば、なんて買い占め作戦を提案したならば、ダメだった。 クジラを大量に茹でる際にしかこの切り落としはでないわけだという。 次はいつになるのかわからないのだという。 残念。
ちなみにこの切り落としのクジラの種類はミンククジラだった。 でも充分旨かった。 これならオイ、丼に3杯は食えるよ実際。