エセ角煮まんじゅう

角煮まんじゅうとは、長崎卓袱の中でもスターであり、近頃全国的にも長崎名物として知られるようになったオイシイ食べ物ではあるけれども、そんな角煮まんじゅうも、作り方によっては、マズイと言い切る。
お盆に田舎に帰省したときのこと。 どんなに食べ物が豊富にあろうとも、とりあえず寿司を頼んでしまうのは、ばーちゃんの習性として黙認するが、今回我々を出迎えようとばーちゃんが88歳にして新たに挑戦したおもてなしに、自家製角煮まんじゅうがあった。
そういえば去年、檀流の東坡肉の作り方を伝授した覚えがある。 それをこの夏、マスターしたのだばーちゃんは。
おそるおそる、少しハニカミながら、角煮まんじゅうを3個お皿にのせて運んできたばーちゃんは、オイらが口にするまでその場を離れない。 オイと、息子は各一個づつ角煮まんじゅうを手にとり、ガブリとやる。
「くーっ、マズい。」
そもそも角煮の作り方がてんでいけない。 ばーちゃん、忘れたのか? トンポーロを作るんだよ。 檀さん直伝なんですよ。 そこんとこしっかりやってくれないと困るんですよ。 だってこれは角煮のまんじゅうですよ角煮の。 角煮が、肝腎、なんですよ。 と、申しますか、この煮ブタは味がしませぬ。 しいて言えば、水の味がしまする候。
さらにひえー、なんだこのまんじゅう生地。 フワフワでなくスカスカ。 これはまんじゅうていうか、麩(フ)ですな。
いやしかしばーちゃんを目の前にして、そんな酷評できっこない。 顔色ひとつ変えてもかわいそうだ。 ここはひとつ、耐えるんだ。 オイは大人である。 「うん、ばーちゃん、よくこんなの作れたね。 いい線いってるよ。 おかわりないの?」こんなもんで上出来であろう。 そしてやんわり、「も少し角煮を煮たら、も少し味が染みて、もっと美味くなるかもね。」と伝えた。
ばあちゃんは喜んで去る。 その間、実は息子が「マズー」なんて言わないか、ドキドキしていた。 前に息子は某ちゃんぽんチェーンのお店のちゃんぽんを食べて、「うえ、まずい、まずー。」をはっきり店員が聞き取れる声で連呼したことのある、まったく空気が読めない男である。 要注意人物であるからだ。 しかし、そんな息子もだまっておりこうに完食していた。
あとで聞いた話、そのマズい角煮自体はばーちゃんが作ったのだが、まんじゅう生地は、どこかの直売所から、購入してきたのだそうな。 安くて、オマケもしてもらったのだそうな。 それを聞いたオイは、マズさの責任を、まんじゅう生地のせいにすることにした。 だってまんじゅう生地もマズいことには変わりないんだもの。
「ばーちゃん、さっきの角煮まんじゅうね、角煮はともかくまんじゅう生地がね、もうひとつだったね。 何? あのまんじゅう生地は、ばーちゃんが作ったものではないの? そーなのー。 いやどーりであまり美味しくないまんじゅう生地だと思ったよまったく。 まんじゅう生地さえ上等のものを使ったら、また違った味になったろうね、ばーちゃん。」
まんじゅう生地を作った方、悪く言ってごめんなさい。 でももう少しちゃんと作ってください。 そしたらまたばーちゃんに買いにいかせるから。
卓袱料理を検索していてこの記事を発見しました。かわいいばーちゃんですね。料理上手だったうちのばーちゃんを思い出してちょっとじんわりきてしまいました。