はずれまくりな一日
古い友人と久しぶりに会う約束をした。
美味しいものでもつまみながら一杯やろうという寸法だ。 事前に情報筋から良い店のネタを数件仕入れておき、中でも一番ソソられた割烹屋へと足を向けたのだった。
その店の前で落ち合う約束をして電話を切る。 いざ現場へ向かうとすでに友人は到着していた。 が、店の灯りが消えている…なんと今日は定休日だった。
気を取り直して次の候補の店へと向かった。 外から覗けばあいにく席は空いている。 なんでも肉と日本酒が旨い店だという。 勢いよくドアを開け放ち「二人です」と椅子に座った。
すでにこの瞬間から「しまった」と思っている。
どう見積もっても良くない店なのだ。 雑な手書きのホワイトボードに記されたメニューに、ボロボロのテーブルメニュー。 なんと日本酒がひとつも無い!
厨房内の店主は終始ゴホゴホ咳きこんでいるしマスクもしていない。
友人に目くばせをし、一杯だけ飲んで逃げる事に。
常連とおぼしき男性が二組座っている。 彼らとの雑談に店主の手は止まり、まず注文したビールを飲み干した頃になってようやく突出しが出された。 とろけるチーズに挟まれた奈良漬を揚げたものだ。 油臭くて食べられたものではない。
仕方なくもう一杯焼酎を飲んで出た。
気を取り直して次の店へ。 なんでも若夫婦の営む新進気鋭の居酒屋なのだとか。
店は案外賑わってはいる。 案内されたカウンターに着いて腰を下ろすと「ガフッ」と体が沈みこんだ。 何故だか知らんがフカフカソファが据えられているのである。
これでは目の前のカウンターとの位置関係が合わず、ヒジを満足に置く事もできない…つまり料理をつまむのも一苦労しなければならない店なのだ。 ゆっくり飲んでやいられない。
そそくさと店を出て次の場所へ。 なんでも鶏刺しが絶品なのだとか。
今日はまだひとつも満足のゆく食事をしていない。 次こそは! と祈るように店の前に立った。 ガラス戸には目張りがしてあり中の様子を伺う事ができない…嫌な予感がする。
恐る恐るドアを開くと、店内にひとりも客はおらず、無愛想な板前と目が合った。 はっきりいってこの瞬間、すぐ回れ右をして無言で立ち去りたかった。 でも大人としてさすがにそんな卑怯な行為ははばかられる。
「今日はこんな日なのだ」
と観念して中へ進もうとしたその時、板前が「今日は終わっちゃった品が多くてですね…」と、今から入っても良いものないよ的発言をした。
これぞ天の思し召し。 満面の笑みで「じゃまた今度伺います」と店を後にした。 仮に品が揃っていてもこちらに我らの求めるサービスが無い事は明らかである。
結局なじみの店に落ち着いて呑む事に。 「やっぱこの店が一番だね」と頷き合いながら夜はふけたのであった。