やきとり浜ちゃん
以前中野にお気に入りの焼き鳥屋があった。
鬼瓦みたいな顔をしたぶっきらぼうで、少しシャイな店主の焼く鶏は、どれも旨かった。 酒がまた良い。 「酒人」を名乗る彼だけに、おびただしいレア銘柄が壁一面を埋めつくしている。 酒を注文すると「もっと良いのあるよ」と、奥から見たこともない酒瓶を提げてくる。 酒飲みの心は酒飲みにしかわからないのだ。
呑んでいて時折「シューッ」と、まるで圧力鍋を炊いているような音が聞こえてくるのは、店主が串を焼きながら立ち上る炎を息を吹きかけ消す音だ。 その姿をカウンター越しに眺めていると、「早くその串よこせ」とノドが鳴ってくる。
ところがある時電話もせずに店をたずねたら、跡形もなく消えていた。 繁盛していたのにどうした事か。 さておきその、忽然とした消え方からして彼らしいといえばそういう気もする。
新生 浜ちゃん
縁とは奇妙なもの。
おとといバッタリ伊勢丹のカドで店主に遭遇した。 しばらく立ち話をすれば、なんでも今は、違う場所で焼き鳥屋をやっているとの事。 なんだ移転だったのか、当時教えてくれても良いものだけど、なにぶん店主はシャイにつき。
その晩早速店に向かった。 『やきとり浜ちゃん』。 入口にモノモノシイ張り紙がベタベタしてあるイカニモな店。
さっそく入れば、店には不釣り合いなくらい大きいモニターからジャズが鳴り響いている。 スキンヘッドになり一層スゴミを増した店主は鉢巻姿でニコリともせず「っしゃい!」と出迎えてくれた。
カウンターには無造作に日本酒焼酎が並んでいるが、よく見ればどれもみな格酒だ。 ゴチャガチャとノーガキたれまくる俗人店主が世にあふれる中「これ旨いから、山奥で二人で作ってる酒で死んじゃったらもう終わりみたいな酒だから」と、竹を割ったような解説が清々しい。 このほうが、ハッキリ言って何倍も、酒は旨く感じる。
焼き鳥
品数こそ少ないものの、レアに焼きあげられた鶏は酒飲み仕様。 串以外にもレバポン、鳥刺と呑み助のキモチに基づいたメニューが嬉しい。 キュウリは一本をスライスして味噌を添えただけ。 キャベツは1/8に味噌を添えただけ、という店主の人柄が現れる品こそつまんでいただきたい。
はじめは戸惑う所もあるにしろ、二三度通えば店の虜になってる自分に気づくハズ。 本当に旨い酒をしんみり呑みたい人は、とにかく西早稲田のオリンピック裏を目指すべし。
やきとり浜ちゃん
- 03-3208-9450
- 東京都新宿区高田馬場1-12-1
- 18:00~23:30
- 火曜休