ニラよ
モツ鍋といえばニラが必須である。
丹念に抽出したカツオだしにモツの脂が溶け込んでいて甘く、スライスニンニクや唐辛子のパンチが効いており、キャベツやもやしを煮込んで食べる。 忘れてはならないのがニラで、モツ臭さを消すのに重宝し、唐辛子の赤といっしょに鍋に彩りを与える。
あるとき田舎でモツ鍋を作って食べた際、ニラだけがなかった。 車でひとっ走り、ニラを買いにいこうかとしているところ、ばーちゃんがこう言った。
「に、ニラに似たとは植わっとるにら。」
家の裏に、おそらくニラだと思われる草が植わっているのだという。 案内してもらうと、雑草がボーボーと生い茂っている中に時折ニラのような緑がのぞいている。 でも一見単なる雑草にしか見えない。
「ばーちゃん、これホントにニラかな? その根拠を問う。」
するとばーちゃんは、だいぶ昔にその場所付近にニラを植えたような、植えていないような気がする、というなんともどっちつかずの返答をする。 ならばこの緑の草がニラなのか、ニラでないのかはオイの判断ひとつにゆだねられるわけだ。
少し考えてから、所々生えているニラ風の草を引き抜き、かんでみる。 よく知るニラの風味のようでもあるが、感じる苦味はただの雑草のようにも思える。 うーんどうしようか・・・。
でもまあ、ニラは草でしょう。 万が一雑草だったとしてもそもそも雑草という草はないのだしさ、しかもこれって無農薬じゃないか。 と自ら励ましながら、目の前に植わる緑の草をニラだということに認定した。
抜き取って、キレイに水洗いして、切って鍋に投入。 もう後にはひけない。 喜んで鍋をつつく皆には、「ニラは買ってきました」と伝えた。 この件は、ばーちゃんとオイだけの秘密である。