居酒屋スナック
塗料のはげまくったカウンターに、若干湿り気を感じさせるイス。 8坪ほどの店内には、この店には不釣合いなほど気高いママがひとり。 おそらく若いときはそーとー美人だったはず。
一応居酒屋なので、おしながきがあるが、どれも料理というかスナックで供される程度のものばかり。「生と枝豆ください」と注文すると、なんだか迷惑そうである。 突然カランカラン、と、ドアが開く。 「あら、いらっしゃい。」と、ママ。 オイが入店したときとは手のひらを返すように一変したやさしいもてなしにて、お客を迎え入れる。
そのお客っていうのがまた、イイ味だしてんの。 風貌は昭和風。 ドデカイサングラスをかけている。 髪は長髪げ、ヒゲわっさりなんだけど、紳士風といったヨクワカランかんじ。 この人が、オイのとなりに座る。
なんだかとっつきにくそうな人に見えたけど、話をしてみると微妙に面白く、なんでも映画のプロデューサーなんだとかいって、オイにチラシを見せてくれて、小一時間、語りに語られる。 生命の、神秘を説かれる。 一呼吸おくごとに、焼酎をトクトクトクと、注いであげると、それを美味しそうに飲みながら、口も滑らかになっていく。
カランカランと、ドアが鳴り、またお客が入ってきた。 今度は3人。 やはりママは、やさしく迎え入れる。 皆常連さんなのだ。 ひとりはギターケースをかつぎ、もうひとりはデブっちょのおばさん。 そしてひときわ異彩を放つもうひとりは、見た目はまんま、内田裕也。 白髪のストレートなロンゲが、綺麗である。
ともかくこのお店は、この濃い常連さんたちの隠れ家であり、わりと一見さんはお断りといったようなお店なのである。 お客さんの年齢層は高く、オイは浮いちゃっている。 でもせっかくだし、楽しまなきゃ損でしょ。 と、仲間に入れてもらい、楽しく飲んだわけである。
三島由紀夫の話をさんざん聞かされているところで、「カランカラン」と、ドアが開く。 そこには、60過ぎ?ぐらいの小さなおじさんがいた。 相当年季のはいったギターをかかえている。 常連さんたちは興奮する。 このおじさんは、「流し」なのである。
3人連れのお客のうちの、デブのおばちゃんは、シャンソン歌手なのだとか。 そのおばちゃんが歌ったのをきっかけに、ママが、「東京キッド」を歌う。 流しとの息もぴったりで、もう、すごく、上手い。 その次はデカサンのおじさんが、「ぼくらはみんな生きている」を熱唱。 そしてそれにあわせて内田裕也風が踊る。 彼はパリで活躍する舞踏家なのだとか。 そして、素晴らしいショーをタダで楽しんでいたオイは、「なにやってんだ!オマエも歌えよっ!」と怒鳴られ、半ば強引に、石原裕次郎をズラッと歌わせられたのである。
以上新宿の、とあるお店でのお話。