田舎へ | 見つめる赤いトラクター

というわけでヨメと娘を家に残し、息子と共に田舎へお泊りにいってきた。 交通機関を駆使しても、なんだか夏休み然としないので、できるかぎり歩いてみることにする。
普段は車で一瞬通り過ぎるだけのばーちゃん家までの道のりも、こうして歩いてみると、なかなか味なもんだね、息子よ。 先は長い。 時間は、ある。 のんびり歩こうよ。
いつ来ても、田舎なんだな、ここわ。 ぼくぁー、なんだか、うれしいんだな。 なんちゅうかこう、ほっとするんだな、ぼくわ。 なんて、山下清然として歩いていると、目の前に、ふぁー赤ーいトラクタぁーが、現れた。
じーっとこちらを見つめているようなきがする。 物悲しそうな雰囲気もあるが、どうもこちらを小ばかにしているような顔つきに見えないでもない。 ずいぶんくたびれているようではあるが、もう引退されているのか、まだまだ現役なのかもよくわからん。 フと、小さい頃に、無断でばあちゃん家のトラクターに乗り込んで、暴走させて、危うく川へ転落しそうになったことを思い出して、一瞬ヒヤリとして、また歩きだした。
木造建築

実に昭和を感じさせる小店を見つけ、四角いビニール袋に入ったカキ氷をひとつ買い、息子と食べながら歩く。 この辺の家は、木造が多いな。 一体いつ頃建てられたものなんだろ。 手すりらへんとか、好き。 この家には土間があり、そこで子供達が遊んでいた。 身なりを見ると、おそらくこの辺の子供ではないことは確かで、お盆で帰省してはしゃいでいるといったところなんだろうね。
田んぼ

広大な田んぼのちょうど中央に小道がはしっており、カエルを追いかけながら通り過ぎていく。 四方が緑に囲まれていて気持ちよかね息子よ。

「ブーン」と、左っかわからデカい音がするので、近づいてみると、そこにはなんと、ラジコンヘリがっ。 遠目から見ると中田英寿風の顔立ちのおじさんが、中田英寿然としたそっけない態度で、まるでフィールド上の中田英寿を髣髴とさせるようにヘリを機敏に操縦している。 ヘリから白い粉が出ているので、おそらく農薬を散布しているものだと思われる。 中田氏の顔は無表情ではあるが、きっと、心では「ウヒャヒャ」と喜びながら、作業しているに違いない。 「ちょっとだけ操縦させてくんない?」 と、心で訴えながら親子二人、しばらくヘリを見守る。
クラシックを聞く牛ら

こんな田舎のど真ん中で、遠くからクラシック音楽がかすかに聞こえてくる。 誰だ? 昼間っから優雅にキメこんでいるヤツは。 なんと、牛だった。 牛舎(牛舎というか、民家カスタム)からかなり大きなボリュームでなんていう曲かは知らんが昔音楽の授業で聞いたことがあるであろう、うっすらと聞き覚えのある曲が流れている。 これは田舎だからできる音量で、都会だと、いや都会でなくとも周辺に民家があると、いくらクラシックだからといっても、うるさくて、苦情がもちこまれること必至であろう。
ていうか、牛さんらもホントは少しウルサイと思っているのかもしれない。 犬の嗅覚は人間の300倍だとか聞いたことがあるが、牛の聴覚は、人間と比べるとどうなんだろうか? 少なめに見積もって、牛の聴覚が、人間の2倍だったと仮定しよう。 それでも一日中この倍の音量でクラシックを聞かされたら、発狂すること必至であろう。 いや、少し遠慮して、牛の聴覚が人間のそれの1/2だったとしよう。 いやでもそれでもうるさいよ、このクラシック。
乳牛に音楽を聞かせながら育てると、乳の出がよくなるのだとか、その他なんかにも音楽を聞かせると美味しくできあがるだとか聞いたことがあるが、この牛さんの場合、肉牛なのだろうか? 何故、音楽を聞かせると、よい効果が得られるのだろうか? もしかして、牛がリラックスするからであろうかー? それならば、やはりこの大音量の、クラシック音楽では、リラックスできないと、オイは考え、息子にその意見を聞いてもらい、少し気が済んだ。
ていうかそもそもいくら音楽で心地よくさせたからといって、居住している建物がボロくて、なんだかジメジメしていて、非常に狭くて・・・牛さんのことを思ったら、もうこれ以上書けない。
お盆灯篭

お盆には、先祖を出迎えるための明かりとして、提灯を玄関先に吊るすのであるが、毎年数件は、その提灯の火が原因で、火事が発生している。 せっかくご先祖様を思ってともした提灯が、まさか火事の元になってしまうとは、悔やんでも悔やみきれない。 お盆時期には、かならず新聞で見かける記事。
そのお盆の提灯だが、普通家紋等が入ったベーシックなものが使われるが、地方によっては、上の写真のような、ド派手で豪華なものが使われる。 きらびやかで、さぞ、ご先祖も、お喜びのことでしょうな。
棚田

高台から棚田が見える。 よくもまあこのように自然の地形をいかして、整然と田んぼを作れるものだと、見入る。 しばらく進むと、棚田の真中に大岩がポツンとあるのを見つける。

あとで聞いた話、この岩は、昔地震があったときに、上のほうから滑り落ちてきたのだとか。 近くに民家もあることだし直撃しなくてよかったよね。
ばあちゃんの煮つけ

そしてようやく息子と2人、歩きに歩いてばーちゃん家にたどり着いたわけである。 今晩は花火や、カブトムシ取りに出かける予定ではあるが、とりあえず腹ごしらえをせねばならぬ。
実をいうと、今回の3時間にわたる道のりをずっと、カレーをかついでやってきたのである。 デカい登山用のリュックを背負って。 カレーは漏れないように蓋のキッチリと閉まる圧力鍋に入れ、がんばって歩いた。 圧力鍋の蒸気排出口から少しカレーが漏れることを考慮して、ビニール袋でその辺を密封しておいた。 このカレーを、ばーちゃんに食わせようという魂胆だ。 小麦粉を炒める際には息子も手伝ったので、オイと息子の合作ということにもなる。
ばあちゃんはというと、ばあちゃん流のおもてなしとして、いつものようにお寿司を注文してくれていて、ばーちゃん製ありあわせの煮付けを作っておいてくれたのである。 なーに昆布がデカくったってかまいやしない。 ウマけりゃいいのである。
おわり