ワタリガニ
オイの親父がワタリガニが好きで好きで。 オイが幼い頃も、しょっちゅう自分で買ってくるわけ。 そして湯がいてむしりながら酒の肴にするんだけど、やっぱりそんな環境だと、オイもワタリガニを徹底的に食わされたわけ。 それがウマイの。 「なんでこのカニは後ろ足だけつぶれているのだ?」とか考えながら、その後ろ足にたんまりと詰まった身をほじくって食うとさね。 おそらく町内で一番ワタリガニを食べていた少年にちがいない。 いやちがいない。
そんなワタリガニが、先日の披露宴にこだわるけれども、ひとり一匹づつ並んでいたというわけさね。 少し楽しみにしてて、ビールは早々ときりあげ、焼酎を頼んで、さあ、カパッと割って食おうかと。 ミソやタマゴは詰まってんのかと心配しながらガバッとカニを開くと、オーッ。 お目当てのカニミソが多少詰まっていたのであります。(→やマル)
オイはこのカニミソが大好きで、居酒屋さんの缶詰のカニミソペーストでさえ、何遍も注文して「なんかね、オマエもう食いすぎ!」とか怒られたりもするほど大好きなんだけれども、それが→や、マルの部分にあるわけです。 オイにとって、ワタリガニを食うとは、「カニミソを食う」と、同じ意味なのでありました。
そしてペロリと少し指でなめて、さあ本格的に食べようとしたとき、見知らぬおじさんが隣に座っていたのでした。 そのおじさん(息子がよく見るディズニー美女と野獣の野獣に似る。 なので以下野獣。)が、モノシリげに語りだしたのであります。 「ちょっとカニの甲羅かしてみて。」と言う。 オイのなによりも大事にしているミソ入りのカニを渡せとはなにごとかっ!っていうかいつここに来た? とかも思いながら、でもむこうも大人だし。 まさかオイのカニミソをガブリなんて食わないでしょうとその野獣を信じて、しょうがなく渡す。
そうしたらその野獣、オイのカニミソ入りの甲羅に、自分が飲んでいる熱燗をトクトクトクトクと注ぎ込んだではありませんか!!!! 「こうやって食うと、ウマカとぞ。」と。 あー。やっちゃった。 オイ知ってます。 そうやって食うの。 だってオイの親父はワタリガニばっか買ってきてたんですよ。 え?
いやーまいった。 オイのなかで、カニの甲羅に、その熱燗を注ぎ、カニミソをぐちゃまぜにして、ススルのは、カニが2ハイあるとき限定の、食い方なのであります。 今日は1コしかないので、そんな食い方はせず、チビリ。チビリ。と、食いながら、焼酎をあおり、お父さんありがとうなんかの手紙を読む感動シーンで、こちらもこっそりもらい泣きをしようかと考えていたのにこの野獣氏は随分余計なコトをしてくれたものだ。 いや実際。
「あ、あ、あ、あ、あーっ。あーっ。 あーっつ。」と、その状況を前にもはや言葉といった言葉も出ず、差し出されたカニの甲羅をもらい、一気に飲み干したのでした。 いやたしかに美味いけどこっちはこっちの予定がね。 ねっ。 あるわけですよ野獣氏さんよ。 でも「あー美味しかですね。 こういう食べ方があるのですね、オイ、知らんかったですよ。 ありがとうございました。」と、心で泣きながら言ったのでした。
そうするとその野獣氏は気を良くして、やれホントに美味いのはワタリガニではなく上海ガニであるだとか、美味しんぼの何巻の何は読んだことはあるかだとか、あるとき毛ガニを部下たちに大盤振る舞いをしたことがあるだとか、なんてことない話をしゃべりまくり、余興が始まるやいなやカラオケの曲をリクエストして、「じゃ、歌があるのでこのへんで」とかオイに言い、
「ぬぅあみだぁーぐぅあぁー、うぁふぅれぇーるぅぅー、くぅわなぁしぃーいぃー」
なんて歌いだしたのでした。 野獣さんよ、ていうかあんた誰? オイの隣に座ってた友達はどこ? もしかして食べた?
はじめまして 2ヶ月程前に神奈川県から引越して参りました。このサイトに出会ったのは、娘(7才)が桃太郎ブタマンとやらを食べ、それが以上に口にあったらしく、ネットで見たいと言い出しまして、色々検索してあげてるうちにここにたどり着きました。
娘は「オイ」やら「ウマカね」等と言う長崎弁を見るとゲラゲラ大うけし、たちまちここのファンになりました。今では親子二人でちょくちょく覗いて楽しんでいます。
これからもよろしくお願いします。
それにしてもこの「野獣」とんでもないオヤジですね。大事なワタリガニを!