猪原金物店
創業明治10年、九州で二番目に長い歴史があるという金物店が「猪原金物店」である。
存在をウェブで知り、機会をうかがっていたところ、先日ようやく行くことができた。 島原城のすぐ近くにある。
壁面にあるのは鏝絵(こてえ)。
鏝絵とは何かというと、漆喰の壁に浮き彫りの模様を描く左官さんの技である。 江戸末期の静岡にいた天才左官職人「入江長八(通称 伊豆の長八)」がルーツだと言われている。
数年前にとある町で偶然見かけた鏝絵に魅了され、以来民家の鏝絵を探し続けているのだが、なかなか無い(長崎県内で鏝絵のあるお宅をご存知の方は是非教えてください)。 鏝絵に興味のある方は『消えゆく左官職人の技 鏝絵』をおすすめする。 全国各地の鏝絵を写真入で解説している一冊だ。
店内はおもちゃ箱だ。 子供の頃におもちゃ屋の大型店舗に足を踏み入れたときの感動、興奮をおぼえる。 一体どこから見はじめたらよいのか戸惑うほど、まさに金物であふれている。
ゴチャゴチャしているようにみえるが、各カテゴリごとに細かく分類された品々は圧巻。 しばし時を忘れて見はまる。 水が溜められたシンクがあり、砥石が置かれている。 その後方には、リアルなマッコウクジラのフィギュアが・・・と、近寄って観察していたら、どうやらここは会計スペースのようで、客として足を踏み入れてはいけないエリアだったようだ。 その辺の境界線がわからなくなるほど品々がより美しく見えるよう、ディスプレイされてある。
レトロな看板が掛かっていた。 その奥にはテーブルと椅子がある。 緑美しい中庭を眺めながら、お茶をすることができてしまう金物屋なのだ。 メニューをみると島原名物「寒ざらし」とある。 はて何のことかと思いきや、シロップに白玉団子を浮かべた島原独自のデザートなのだとか。 長崎人ながら知らなかった。
池に泳ぐめだかを眺めていると、その後ろでなにやら数人のおじ様方が身を寄せ話をしている。 ガラス戸越しに覗くと、そこには刀剣が鋭く光っていた。
ひとりのおじさんが「中へどうぞ」と促してくれたので、ここぞとばかりに飛び込んだ。
知識はないが、刀には非常に興味がある。 これほどまでに間近で刀を見たのは初めてだ。 どうしてこんなに美しいのだろう。
見れば見るほど、いたるところに装飾が施されていることがわかる。
素晴らしい。
刀の原料となるのが玉鋼。 このコンニャク芋のような鉄の塊が、美しい日本刀に変身するなどにわかには信じがたい事だが事実、そうなのである→日本刀の作り方。
部屋の中央に飾られている一風変わった刀というよりも剣。 これは何と、紀元前2000年頃の中国の剣なのだ。 紀元前2000年ですぞ。 歴史の教科書にでも載っていそうな剣がこんなに間近で観察できるなんて。 見つめているうちに気が遠くなってきてつい「これって本物なんですよね」とあらためて聞いてしまった。 椅子に腰掛けて腕組みしながらこの剣を眺めていたおじ様は黙ってコクリとうなずいた。
※刀については刀剣鑑定士:松井更生さんによる「島原美術刀剣展示会」がたまたま開催されていたもの。 いつも展示されているわけではありませんのであじからず。
店のとなりには駐車場があるので車でもオッケー。 年代物のニッサンが止めてある。
店の脇で湧き水が流れており、飲める。 店の方によると、無菌であり軟水で、汲んで帰るのも自由だという。 容器を購入し、ありがたく汲ませていただいた。
金物好きはもちろんそうでない方も、是非「速魚川 猪原金物店」に行かれてみてはいかがだろうか。
どもども、ご無沙汰してます。
長崎市内の誰かで繋がるかと思っていましたが、なんと島原、それも猪原さんとこで繋がるとは想像していませんでした。
あくまでも想像ですが(笑)、オイさんが猪原金物店に入るともう逆上してしまってあれこれ欲しい物がありすぎて、よおし、これとあれを買って帰ろう、支払いはカードでオッケーと決心したところ、残念ながらカードが使えないんですごめんなさいって猪原さんから申し訳なさそうな顔で言われたという「画」が浮かんできました。と、ごめんなさい、私も逆上気味でした。。。
いや、だからなんなんだと言われると、なんでもないんですけど、なんだか嬉しくてコメントしちゃいました。
では、また。
thom@北九州さんお久しぶりです。
猪原金物店、とても素敵な空間でした。 三日ぐらい泊まりこみで店内外を物色したいぐらいでした。 なかでも池で泳いでいたニホンイシガメなのですが、たぶん実物を見たのはこれがはじめてだと思います。 「養殖」との張り紙がありましたが、どこかで入手できるものなのでしょうか。 金物だけではない奥深さがありました。
thom@北九州は店主さんとお知り合いなんですね。 そのうちどこかでお会いできるかもしれませんね。 その日を楽しみにしております。