某ハウス系ラーメンにて
某有名ハウス系ラーメン店にて。
相変わらずいつも行列ができていて、食券を購入後、店の外に設置されたベンチに座る。 ベンチに座れただけでも今日はまだいいほうである。
「ここが最後ですか?」なんていま来たばかりの客に問われ「そうっすよ」と返事をする。 オイの後ろに、新たに2人の客が並ぶ。 店内からねじりハチマキに白Tシャツ、ナイロンベルトに作業ズボン、足元は白の長靴というスタッフが出てきて「えー、食券を購入されていない方は購入されてから並ばれてください」と言う。
「ヤベ、食券買ってなかった」とオイの後ろの2人はつぶやき、あわてて食券を購入しようとベンチを立つ。
ベンチに座りながら、店内でラーメンをススリはじめたお客をボーっと眺める。 皆無言で無心にラーメンをススっている。 時折、水を注ぎに席を立つ者もいる。 会話は聞こえてこない。 チラホラ食べ終わって店を出る客も出始めた。
再びスタッフが店内から現れて「えー食券拝見しまーす」と言う。 ベンチに座ったまま手に持つ食券を見せる。 それをひとつひとつ確認してスタッフは店内へ戻る。
店内にはチラホラ空席が目立ち始めたが、まだ入店許可がおりない。 オイの前に並ぶおじさんは、手に持つ食券をイジリまわし、少しイライラしたように店内を覗き込んでいる。 相当腹が減っているのだ。 早くラーメンをススリたいのである。
スタッフが再び現れ、ベンチに座る客の数を数える。 念を押して2度数える。 そして「はいここまで」と、客の列を割り「お客様どうぞ先頭の方から一列に並ばれて入店してください」という指示が下る。 入店許可がでた客は、無表情を装いつつも、どこかに安堵の表情が見え隠れし、言われたとおり一列に行儀よく入店する。
「はいここまで」と直前で区切られてしまい、入店が次回に見送られた客は、イライラを増幅させながらも無表情を装いつつ、半分腰を浮かせながらベンチの先頭へと移動する。
幸いオイは入店することができた。
食券をカウンターに置く。 そしてすかさず給水機へ向かい水をコップに注ぎ、急いで戻る。 「お好みなどございましたらどうぞ」と厨房内のスタッフが今回入店できた客に一人一人尋ねていく。 「麺固め」とか「油少な目」とか「味濃い目」とかそれぞれ伝える。
太めの麺をほぐしながら、湯へ入れる。 それぞれのお客の好みを聞いたスタッフは、ラーメンを作るスタッフにそれをつたえるのだが、その際、聞いても意味のわからない隠語というか業界用語を用いる。 「はじめの小油多め」「大中小いってその次小固め」(どちらもニュアンスだけのデタラメを例に書いています)
今回オイが来店したときは、どうも新人のスタッフが客の好みを聞いたらしく、テンパってしまった。 「大中小いってその次油多め」あれ? いやモトイ。 「中中小いってその次麺少なめ」ん!? も、もとい。 「大中は麺が・・・・・・。 と、3、4回繰り返し、麺を茹でてる先輩スタッフの顔がこわばる。
そして、海苔が3枚のっかった、豚骨醤油系の太麺ラーメンが出来上がった。 「はい麺柔めおまちどうさま」 カウンターにどんぶりが置かれる。 その客は、キョトンとした顔。「注文したのは、普通のラーメンなんですけど。」
新人スタッフの聞き間違い、もしくは伝え間違いで、客の注文した普通麺ではなく、麺柔めのラーメンが出されてしまったのである。 「お客様大変申し訳ありませんでした。 もう一度作り直しましょうか。」と尋ねるスタッフに、その客は「いや、大丈夫です」と言う。 寛大な客。
そんなやりとりを横目で眺めているところに、オイが注文した大盛チャーシューができあがった。 そう、これこれ。 レンゲを取り、まずは油多めのスープをススル。 うーんマイルド。 すぐさま麺をすすりこむ。
そういや数日前、大勝軒が閉店したというニュースを見た。 実は一度も足を運んだことがなかったわけであるが、やっぱり一度つけ麺を食っておくべきだったかな、なんて後悔もしている。 手許にある愛読書、東海林さだおの『ケーキの丸かじり』に「行列店のラーメンは」という項目があり、大勝軒のことが書かれてある。 大勝軒のスタッフの方々本当にお疲れさまでしたという気持ちを込めて、ここに引用させていただきたい。
以下その項目の大体の内容を記します(未読の方要注意)
「行列のできるラーメン屋」ということが言われ始めてもうだいぶたつが、その嚆矢(こうし:ものごとのはじめの意)は、荻窪の丸福と池袋の大勝軒だったと思う。 2軒のうち、丸福は前に制した。ずっと気になっていたのが、大勝軒である。 この店の評判は依然として高い。 どうしても一度いってみたいと思いつつ、10年もたってしまったのは、大勝軒の行列の厳しさによる。
いつ行っても最低15人は覚悟しなければならないし、そのうえ営業時間がきわめて短い。 午前11時に開店して午後3時には閉店してしまう。 たったの4時間。
そのうえ大勝軒に並んでいる人々は、ラーメン道のプロ中のプロばかりで、麺道6段、8段なんてのはざらにいるし、一体、どんな人々が、どんな表情で、どんな雰囲気で並んでいるのか。
JR池袋駅から地下鉄でひと駅の東池袋駅で降り、歩いて5分。 行く手に古びた木造モルタルアパート風の建物が見えてきて、その一階のところに行列が見える。 行列の最後尾につく。 店より頭にハチマキの愛想のいいニイチャンが出てきて、行列の人々の注文をとる。 行列の人々は「中華」「もり」「あつもり」のいずれかを口にする。
店内へ。
愛想ニイチャンが客の座るべき場所を指示する。 ニイチャンはぼくにカウンターの一番奥のテレビの下の席を指定した。 その後この席は、店内では「テレビ下」または略して「テレビ」と呼ばれていることがわかった。
4畳半くらいの広さのところに4人掛けのテーブル席が2つ、カウンターの客5人、カウンターが厨房側に折れ曲がったところに3人。 計16人がひしめいている。
厨房内に男性3名、洗い係のオバチャン1名。 ニイチャンを入れて総計21名が集結しているのに、店内に私語はいっさい聞こえず、ただラーメンをすするズルズルという音のみ。 かといって名店特有の緊張感があるわけではない。 熱気、そうです、ラーメンを愛好する人たちの熱気がムンムン狭い店内にうずまいているのだ。
厨房も無言。
テレビなどでおなじみの店主の、白ハチマキの中の髪の毛が白い。 10年のうちに店主も年をとっていたのだ。
フロアマネジャーのニンチャンは、客の顔と注文を覚えていて、「テレビ 中華」と厨房に注文する。 テレビと名づけられた男は、早々と箸を割って中華そばの到着を待つ。 中華そば来る。 まずそのボリュームに驚く。 丼のフチの所まで麺が盛り上がっていて、ふつうの店の2倍はある。 その分スープが少なく、麺をその都度スープにまぶすようにしてすすりこむことになる。 麺はやや太め、つるつるのモッチリ系で、やや茹ですぎかなというタイプ。 スープは東京風醤油系をやや茶色っぽく濁らせた感じで味は濃く、脂っぽいギトギト感はない。 チャーシュー巨大。 赤身系2枚。 味よし。 メンマ多数、おいしい。 レンゲなし、水なし。
ラーメン以外のものは何も要らないという人々のメッカなのだ。