腹の中身

「カレーパン食べる人!」
の声を聞き「ハイハ~イ」と返事をしたらもうその一個は息子の手に渡っていた、ザンネン。 なんでもこのパン屋、カレーパンと塩パンの美味しさで他店を置き去りにしている今、最もこの辺で勢いのある、全盛期のジョナ・ロムーみたいな店なのだという。
「一体他の店のと、どの辺が違うの?」
と、口にできなかった分その印象だけでも情報として入手しておきたいと思い聞いてみたら、中に詰められたカレーにとにかく味があるという。 しかもパンにパンパン詰め状態でルーが入っているそうで。 よく見たら確かに蜂のお腹みたいに中央がプックリしていて両端はキュッと締まっている。
「一口ちょうだい、とは言わないが一枚撮らせてよ」
と現所有者の息子にお願いし、さらに「手タレ」として写真にパンを持つ掌だけ参加してくれるよう促し、いざカメラを構えた。
「そうそう、パンの中身がよく見えるようこの角度でパンを、バリーッと破ってちょうだい」
二三度イメトレをくり返した息子はいざ、ムンズとパンを持つ両手をヘの字に上向けてカレーパンを中央から破り開いた。
「シャッターチャーンスッ!」
と何枚か連射してはみたものの、おやカレーはどこ?
内部にパンパンであるハズの店のウリであるカレールーが見えない。 代わりにパン生地の内側が白く申し訳なさそうに露わとなっている。
「もうちょっと破ってみようか」
メリメリと開けば、パン生地の白さだけがよけい目立つ有様。 そして肝心のカレーは、隅っこでスネているようにしてコリ固まっていた。
何らかのミスなのか仕様変更なのかはひとつしかないので分からないが、パンパンを期待していたのでいささか残念な気持ちになった。
瞬間フと、昔よく通ったうどん屋の事を思い出した。 図太い麺で有名だったこの店は、人気が出てからよりメジャーに走ろうと、どんどん麺を細くしていった。 そして今その店は忽然と姿を、消した。