訪問してくる人々
休日の昼下がり、チャイムがなる。
その日は晴天で、玄関のドアを開けっぴろげていた。 Mr.オクレ氏にそっくりの痩せた男が痛々しい笑みを浮かべながら、申し訳なさそうに立っている。
「えーっと、何でしょうか?」
「あ、あのー・・・ふすま・・・張り替えません?」
「あいにくウチにはふすまがないものでして」
「あ、あそうでしたか・・・どうもすみませんでした」
男はトボトボと去っていった。 近所中を回っているのだろうか。 たぶん、あの雰囲気では、万が一ふすまを張り替えたい家庭があったとしても、断られるのではなかろうか。
もしもオイがオクレ氏だったら、もっと元気にハキハキと各家庭を訪問したいものである。 「ピンポーン!こんにちは!唐突ですけどお宅のふすま、ピンピンしてますか?只今無料でフスマの健康診断をしています!診断をうけてくれたらダシパックを差し上げますがいかがですか?何々?必要ない?あ、そうでしたか!ではまた来年伺います!ありがとうございました!!」 かえってウザいか。
しばらくして、またチャイムが鳴った。
なにやら冊子を差し出され、なにやら社会について問われた。 とまどいながらも2、3度受け答えをすると、その冊子をあげると言われた。 いきなり訪問された人からタダで物をもらうわけにはいかない。 その冊子を必要としている方がもっと他にいるかもしれないので、そうしてくださいと伝えると、微笑みながら去っていった。
他にも色んな人が訪問してくる。
玄関のドアを開けるとそこには天をつくような大男が無愛想に立っている。 何なのかを尋ねると、受信料を払えという。 受信しているからしょうがない、支払った。 ははーん、この人物が以前嫁の話していた怖い人だな? いちいち家にこられるのは恐ろしいので、支払いは引き落としにしたいとか言ってたっけ。 うんたしかに怖い。 引き落としに決定。
チャイムに反応し、走って玄関に向かった息子が帰ってきた。 「エプロンが来たぞ!!!」
何?エプロン?!!? わけもわからぬまま、玄関に向かうと、そこには勉強と白抜きされた藍色のまえかけをした男が2人立っていた。
「何でしょうか?」
「お味噌!いかがでしょうかー?」
味噌屋さんなのだ。 玄関前のトラックには味噌の入った樽が山積みされている。
興味があって少し話を聞いたが、料金関係がどうもわかりづらかったのでやめておいた。 「勉強」のまえかけは譲ってもらいたかった。
一時期パン屋もよく来た。 アンパンが美味しいという噂があり、嫁はよく買っていた。
新聞の勧誘は頻繁に来る。 何々を購読しているからと断っても「ちょっとだけ、一回だけ!」と、まるでうちの息子のような言い方で試しに購読してみてはと勧められるのだが、ちょっとだけということは10ページだけ購読することができるのかとか、本当に一回だけでいいの?とか意地悪なことを思い浮かべてしまう。
某乳酸菌飲料の定期購入の誘いもたまに来る。 試飲どうぞと、商品を置いていかれるから困る。 いらないといっても、置き去りにするかのようにドッサリ置いていく。 購入しないのに飲むのは気が引けてしまう。
牛乳の勧誘には乗った。 息子の主飲料だからである。