長期熟成酒マニア
かーつったく。 どの店で飲もうか。
たまにどの店で飲んだらよいのかワカランようになる時がある。 そんなときは、自分の嗅覚をたよりに、ただひたすら街中を歩いて、良さげな店を探す。
すぐ見つかるときもあれば、まったく見つからないときもあるわけであるが、さんざん歩き回ったあげく、結局出発点から一番近い店に舞い戻ってきて入店する場合もあるわけで、灯台下暗し。
一軒の酒屋さんの前を通り過ぎようとしていると、奥になにやら意味ありげな空間があることをショーウインドウごしに気付く。 入店。 酒屋らしく、お酒が売られているわけだが、どれも見たことがないモノばかりの日本酒である。
この店は日本酒の古酒専門店なのだそうで、さらに酒Barも併設しているとのこと。 うーんおもしろそうだね。 色んな種類があるけど、とりあえず片っ端から飲んでみるか。
そもそも長期熟成酒とはなんであるか? ちょっとまとめ。
自家熟成酒
自家熟成酒とは、お酒屋さんが独自に熟成させたお酒のこと。 要は、蔵元で熟成するのではなく、蔵から出た後の段階で熟成させたお酒なわけだ。 これならば、家に転がっている貰い物のマズい酒でも2、3年ほったらかしておくだけでできそうな気がしないでもない。
長期熟成酒
酒は古くなると色がついて、味、香りとも悪くなると言われるが、酒の造り方や貯蔵年数、温度等の好条件が整うと、思いも寄らない素晴らしい酒になることが分かってきたのだそうな。3年以上貯蔵すれば熟成の効果が顕著に現れることから、丸3年以上熟成させた酒を長期熟成酒と呼ぶのだそうな。
とまあこのような感じ。 飲む際もゆっくりと、味わいながら飲むのが当然なわけであるが、オイがグビグビ飲んだのは、寝越庵という酒。
2006年ものや2、30年寝かせたもの等飲んでみたわけであるが、とりあえずどれもみなおいしい。 樫樽なんかに入れて熟成させたりしているものだから、良い芳香があったり、酸味があったり。 ブランデーのようでもあり、紹興酒のようでもあり。 中には日本酒度-70なんていうおそるべき大甘口な熟成酒があったりと、面白い店である。
そんな熟成酒のつまみには、生半可なものではダメで、堂々と熟成酒に対抗できる風合いのするものを添えるのがよろし。 ということで、つまみも熟成モノということになる。
明太子を何年か熟成させて、からすみっぽくなっちゃったという熟成明太子をつまんでみたが、なかなかイケル。 とにかく酒であろうと、酒肴であろうと、熟成させないと気がすまないという店主のいる、変わったお店なわけだ。
「さー今日も美味しく飲めました。 さてラーメンでも食って帰るか。」 この言葉に反応した長期熟成酒マニアな店主。 「そ、それならば、オススメのお店がありますよ!」とのこと。 どりどり。 どこなんだねそれは?
実は焼き鳥屋であるが、ラーメンも置いていて、その店の焼き鳥もウマイが、ラーメンが超オススメとのこと。 醤油のあっさりとした、絶品なのだとか。 自称味のわかる男が真顔でススメル店なのだから、そりゃウマイんだろうな、ということで、その店へ向かう。
大体店の外観から怪しい。 よくある小さい焼き鳥屋さん。 店内も異常に狭い。 お店のママにからんでいるダメサラリーマン風の、酔いつぶれたダメおやじがウルサイ。 パリに行きたいのだという。
その絶品ラーメンが目当てなわけだが、とりあえず焼き鳥も2、3本食っとかないとなんか悪いので、皮レバーギンナンと、注文してみる。 「レバーは刺身にできるぐらい新鮮なモノだから、レアめに焼いておくね。」なんて女将が言う ものだから、いいなりになる。 さて、焼き鳥が焼けた。 かじる、マズッ。 ビールで流し込む。
こんなにマズイ焼き鳥というのもなかなかない。 マズイッ! あ、そうか 、ここは醤油ラーメンが絶品だった。 ということは、焼き鳥はオマケみたいなもんだ。 そうだ、そのはずである。 そして焼き鳥はほっといて、ラーメンを注文する。 チャーシュー麺にでもしておこうか。
ラーメンを注文すると、今までボーッとつったっていた兄ちゃんに電源がはいったらしく、動き出した。 動き出すといっても、狭い店内なので、体の向きを変えたといったほうが合う。 そしてその狭い店内の中でも、ひときわ狭いどう広く見積もっても、A3ぐらいのラーメン調理スペースで、ラーメンを作り始めた。 少しイヤな予感。
「はいお待ちどう。」と出てきたラーメンは、一見なんてこともないフツーの醤油ラーメン。 ナルトにシナチク、チャーシューがのる。 スープをススルマズッ。
マズイ。 おいしいハズであるラーメンがマズイではないか。 熟成マニアがイチオシするラーメンが、非常にマズイのである。 マズイというか味がしない。 ぬるい。 細打ち縮れ麺が柔い。 魚介系のダシが効いているっていったじゃないの。 あっさりとしてウマイといったじゃないのよ熟成マニアよ。
おそらくスープは湯に醤油を入れて、味の素かなんかを入れただけ。 魚介系のダシなんか、絶対はいっていない。 こんなマズイラーメン、食ったことがネェやコノヤロウ。 責任者、出て来いコノヤロウ。
食べ物は残してはいけないという教育を徹底的に叩き込まれたオイでも、もはや完食することもできずに目の前の責任者にカネを払い店を出て、熟成マニアにクレームの電話をする。 オイ:「あノねェ、マずイっテもンじャねエぞコのヤろウ。」
もしかすると、この一件は熟成マニアなりのシャレなのかもしれん。 「いやーあんまりマズくてビックリしたでしょ?ハハハ。」なんていうことだったら、まあよしとする。 しかし熟成マニアのリアクションが、熟成マニア:「え、マジすか。 おっかしーなー(困)。」というものだったからこそ問題である。 オイ:「一番最近でその店にいつ行ったの? だいぶ前じゃない? 最近味落ちすぎたんじゃない?」なんて聞いてみると、熟成マニア:「先週行きました。 ラーメン美味しかったッス。」と、答える。 ハハーンこいつ味オンチなんだわ。
熟成熟成言ってっから、とうとう自分の舌そのものが熟成発酵してしまったに違いない、イヤそうに違いない。