十月蠅い
ここんところ長崎は雨ばかりで洗濯物の乾かない日々が続いていたが、昨日は晴れた。 すがすがしい秋晴れ。
予定していた通り、田舎のばーちゃん家へ向かう。 晴れてくれてよかった。 どうしてかというと、新しく購入した天体望遠鏡で、月を観察しようと計画しているからだ。 見晴らしのよい広々とした庭先で子供たちに月をみせるのだ。
夕方、望遠鏡を設置するために外に出た。 じつにすがすがしい秋晴れ。 夕焼けが美しい。 風が心地よい。 いっそこのまま飲んでしまおうか。 「ブシュッ」ビールを飲みはじめる。
家の中に戻ると、すでに夕食の準備ができていた。 普段はオイ自身が夕食の準備をすることが圧倒的に多いのでなんだか不思議な気分。 悪くない。
子供たちが山積みにされたコロッケをカブついている横でヒラスの刺身をつまみながらぬる燗を飲む。 突如手羽先の煮付けが醤油の入った小皿の中に飛んできて、醤油がおろしたてのTシャツに飛び散った。 有り得ん。 でも子供が集まるとこのような事態も珍しくない・・・。
こんなこともあろうかと、Tシャツは何枚か用意しているのだ。 着替えてからイセエビの刺身をつまむ。
突如ハエが飛んできた。 手で追い払う。 するとしばらくしてまた一匹のハエが飛んできて顔の周りをウロチョロする。 ウザい、追い払う。 するとまたハエが・・・。
というように、ある時間からいきなりハエがブンブンいいだした。 一体何事なのか。
猪口を口につける回数よりも、手でハエを追い払う回数のほうが増えた頃、ばーちゃんが「あー秋バエたいね」と発言した。
秋バエとは。 ばーちゃんによると、ハエは暑さが和らぐこの季節になると五月並みに発生しはじめて、寒くなる頃にはパッタリいなくなるのだとか。 この時期日が落ちると肌寒いので、ハエも暖をとるために家の中に入ってくるのだとか。
「ほれっ」とかなり使い込まれたハエタタキを手渡された。 ハエをタタキながら飲めというのか。 どうやらオイの顔周辺だけをブンブンいっている様子。 子供たちには向かっていかない様子。 どうしてだろうか。 オイの顔が暖かいということなのか。 あ、もしかして酒飲んでるから熱もってるのかも。 そういえば五月に遊びに来たときもハエがうるさかったような気がするかも。
とにかく一旦晩酌は中止して、ハエを始末しなければどうにもならん。
立ち上がりハエタタキ片手にハエを追いまわす。 この小バエたちはこっちが動き出すと蜘蛛の子を散らすようにどこかへ消えてしまうくせに、座って酒を飲み始めるとまた近寄ってきて顔の周囲を飛びやがる。 非常に腹が立つ。
うるさいことを漢字で「五月蠅い」と書く。 五月のハエがひときわウルサイことからきた当て字になるそうだが、十月のハエだってウルサイじゃないか。 ウルサイは十月蠅いと書いても問題ないのではなかろうか。
さておき飲んでる最中にハエタタキを持って暴れたものだから変に酒が回ってしまった。 珍しく足にきている。 これからまだ月を観察しなければいけないというのに一体どうしてくれるんだハエ。 このハエが。