マニアック立ち飲み屋
一杯ひっかけてから帰ろうかと、行き当たりばったりのお店に入る。
生を1、2杯飲んで帰るつもりなので、ウマイ店に入ろうなんて気持ちはハナからない。 その店は鉄板焼屋だが若干沖縄かぶれのお店だった。
昔よく通ったお好み焼き屋に似たその店は、鉄板付のテーブルが5席ある縦長の店だ。 入り口に一番近いテーブルに、赤いセーターを着てクロブチメガネをかけたスキンヘッドのオヤジが座っており、競馬新聞を読みふけっている。 オイに気づき、見上げながら「あ、いらっしゃいあせー」という。 なんだ、マスターだったのか。
店内のBGMはBEGINである。 突き出しに冷えたお好み焼きが出される。 生ビールを注文する。 少しつまみがほしくなり、ランチョンミートを注文して鉄板焼く。 マスターがお気に入りの泡盛を一杯おごってくれるという。 お言葉に甘える。 ウマイ! せっかくだからもう一杯飲んでみようか。 ウマイ! ハハハ、ウマイ!
オイのみしか客のいない店内で、いつの間にかそのマスターと2人サシで飲んでいた。 なかなか面白い人である。 BIGINの一期一会について熱く語ったり、憂歌団のおそうじオバチャンがたまらなく好きなのだとかいう。 そして完全にマスターが出来上がった頃、実は近くにもう一軒お店を出しているのだと告白する。
ノリで「じゃ、そっちにも今から行ってみます」なんてつい口走ってしまったものだから、マスター同行でその店に移動することになる。
2分ぐらい歩いたところにそのもう一軒のお店はあった。 あれ、外装がなんだか・・・・電車? その店は電車モチーフだった。
真新しい白塗りの店内には、電車の写真が多数額装されている。 灰皿やその他店内の装飾品は、すべて元は電車に取り付けられていたもの、本物である。 そしてBGMは「ガタンガタンーガタンゴトンーキー」なんていう電車が走っているときの音が鳴り響く。
オイ:「ほー、電車っすか」 マスター:「そう、これからの時代、電車なんだよね」
オイは電車に対して人並みの思いしか持ち合わせていない。 が、しかし、マスターの自慢げな語り口に、おもわず相槌を打たざるを得ない。
マスター:「さっきから電車の走る音が鳴っているでしょ。 このCD、オレ大好きなんだよね。 このナントカ線(忘れた)を走る電車の音を聞きながら、このカップ酒をあおるのが何よりも楽しみでね。 ホラ、今カーブを曲がった。 ホラ、今急に速度があがったでしょう」
オイ:「は、はァ。(は?) そう言われてみるとそのような気がします。」 なんだか腑に落ちないながらも、なんとなく返事をする。 その他にも山のように電車に関する話を聞かされた。 しょーがないからカップ酒をあおる。
なにか相づちをしなければ気の毒かな、なんて思って、鉄道関係の知っている事を搾り出そうとする。 オイ:「あ、そういえば昔、銀河鉄道9○9ってあったじゃないですか。 やっぱアレも好きだったんですかマスターは?」と聞いてみると、顔を曇らせた。
マスター:「ボクはね、想像上の話は好きではないんですよ。」 シマッタ。
オイ:「あ、あのですよ、世界の○窓からって番組あるじゃないですか。 あれはお好きでは?」
マスター:「あんなナレーション聞いても何も面白くない。 何をしゃべったかではなくて、何を感じたかというのが大事なんだよ。 山手線でアレをやるならばまだしも・・・・。 」 シマッタ。
オイ:「私事で悪いのですが、昔同級生にオデコの広いのがおりましてね、その彼のことをデコイチなんて呼んでたんですよ。」
マスター:「D51はね、そんなにチャラついたものではないの。 D51のDってどんな意味があるのか知らないでしょう。」 シマッター。
ダメだ。 オイの知識ではマスターを喜ばすことができない。 困った・・・盛り上がらない。 どうしたものか、うーん・・・・・。 あ、
オイ:「そういえば桃太郎電鉄というゲームがあるでしょ。 あれってやっぱハマったりしたのですか?」
マスター:「あー、あれね! 面白いよーアレは。 たまに一日中やってたりするよ。 いいゲームだよあれは!」 ヤッタ。
~20分ぐらい桃太郎電鉄の話を聞かされる。 ちなみにオイはやったことがないし、あまりやってみたいとも思わない。~
オイ:「電車でGOとかいうゲームもありますよね。 あれについてはいかがですか?」
マスター:「あれ作った人は天才。 いいゲームだよあれは!」ヤッタ。
~30分ぐらい電車でGOの話を聞かされる。 ちなみにオイはやったことがないし、あまりやってみたいとも思わない。~
よく考えてみれば、オイは客である。 なんで客がマスターに対して喜びそうな話題を気遣ってフッてやらねばならんのだ。 普通逆だろ。 冷めた。 帰ろう。
オイ:「そろそろ帰ります。 じゃ、この辺で」
なんて伝えると、あわてるマスター。 実はとっておきのネタがこの店の2階にあるのだとか。 どうしてもそれを見て帰れという。 2階にあがってみると、なんとそこには、忠実に、電車の内装が再現されていた。 手すりにつり革、座席に広告。 前面には巨大スクリーンが設置されており、電車のDVDがビッシリと揃えられている。 ここでつり革につかまりながら、カップ酒をあおりーの、DVDを見て興奮しーの、といのが長年の夢だったのだとか。
まさにマスター自身の為に作ったお店だと言っても決して過言ではなかろう。 ある意味幸せな人だ。