花の音
「今日も赤くなっとるよトマト! ゴーヤはなっとらん」
と、園帰りに家庭菜園の状況を逐一報告してくれて、トマトに関しては摘んできてくれさえもする次女の季節が間もなくやってくる。 「梅雨明けはまだ?」と日に4、5回は尋ねられる。
兄姉はついに夏休み突入。 次男に関しては待ちに待った初の長期休暇であり、各々自由研究のテーマは何にしようかと息巻いているが、この夏父としてお勧めしたいのは、植物の研究だ。
花がなけりゃ実はならない。 といっても、花があれば必ず実がなる、というワケでないのが面白いところ。 ほとんどの花には、オスの部分とメスの部分がある。
雄しべの先端「葯(やく)」には、動物の精子にあたる花粉がついており、果実を育てるためには、この花粉を、雌しべの「柱頭」に運ばにゃならん。
うまく運ばれたら、動物の卵子にあたる「はい珠」と結合し「子房」の中で種が誕生し、果実ができるわけで。
花の中には自分の花粉を使って自家受粉するのもいるが、これでは「生殖」本来の目的である遺伝子の交配が達成されない。
そのためほとんどの花は、他の個体からの花粉でなければ受粉できない仕組みになっている。 そこで問題になるのが、花から花に花粉を運ぶ方法。
食用植物には、風にこの役目を担わせるものも多少ある。 主にトウモロコシ等穀類だ。 粉みたいな花粉を大量に作り出して風に乗せ、あとは運を天にまかせる。
ちょうどダイレクトメールやスパム広告のようなもんで、契約をまとめるためには、山のような広告攻勢を仕掛けにゃならん。
ダイレクトメール式では無駄が多いから、多くの食用植物は宅配便を利用する。
ひとつの花から花粉を集荷し、同じ他の種の花に直接届ける。 鳥や哺乳類では、砂粒より細かい花粉粒を扱うにはあまりにも巨体すぎ、この仕事には適さない。 だが昆虫だったら適職だ。
昆虫は150000000年にわたり、植物の生殖を手伝ってきた。 今では地球上の大部分の植物が、生殖を昆虫に頼っている。 もちろん昆虫はボランティアで仕事をするワケではないから、植物はちゃんとお礼を用意している。
実は、花粉にはたんぱく質が多く含まれており、良質な健康食品と言えるワケだが決め手は花蜜。 ほとんどの花に備わる小さな井戸に湛(たた)えられたエネルギー満載の砂糖水だ。 虫がその花蜜を飲みにくると、その体に粘着性のある花粉粒が付着する。
虫がもっと花蜜を集めようと次の花に移ると、体に付いていた花粉粒のいくらかが柱頭に運ばれる。 これで、手っ取り早い花の交尾は完了だ、おつかれさん!
ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』より抜粋要約
とまあこの辺の仕組みを観察し、図でなんとか説明したら面白いのではなかろうかと思うがどうだね、子供たち。