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2017/08/06

大・脱・想

卵焼き

ただひとつだけ気がかりだったのは、店主のワンオペだという所。

神田に隠れ家的な蕎麦屋があるという。

しかも閉店時間は遅く、日本酒は銘酒揃いだときたもんだ、行くしかないでしょう。

念のため予約の電話を入れると空きがあった。 しかも対応が非常に丁寧だったので期待が高まる。

地図を見ながら店に向かうも、この辺のハズなのに見当たらない。 あたりを二周してようやく分かったのは、路地の奥にある古民家風の建物であり、看板は表札くらいの大きさしかないので、これなら見つからないのもムリはないなと。

空調は無い。 だから汗して入店しても暑いままである。 入口は開け広げられている・・・日も落ちたし、そろそろ夜風は・・・吹いてこない。

すでにテーブル席は埋まっており、カウンターにはひとり先客がいた。

店主がひとりできりもりしているので入店時も予約した旨すら伝えられない状態だった。 だから靴を脱いで上がり、イスに座ってからの「予約した者です」という流れとなった。

突出しはなかなか出てこない。

先ず一杯のビールも注文できないのは、団体客の料理をせっせとこしらえているからである、予想通りの展開だ。 でも別に急いでいないし、のんびりやろうでないかと構えた。

ようやく手が空いたのか、突出しを持って目の前に店主は現れた。 この時はじめて顔を見た。 受け取りざまにビールを注文する。

ここで団体客のひとつがお会計を宣言した。 だから店主は電卓をはじかねばならない。 したがってビールはまだ来ない。 まあ予想通りの展開であるからして、あせらず耐え忍ぼうではないか。

ようやくビールが運ばれてきた。 よく冷えている。 待つ間にずいぶんメニューを眺めたので、注文したい肴はもう3品ほど決まっている。

「あのー注文をですね」

と言いかけたところでもう一組の団体客から「サーセーンッ、厚焼き卵5つ!」と注文が入った。 店主は「ちょっとすみません」と言い残し、冷蔵庫まで小走りし、卵のパックを取り出した。

これはマズい。

さっきメニューを熟読した際私は見逃さなかった。 厚焼き卵の下に「※混雑時は出るのが大変遅くなる事があります」と小さく注意書きがしてあるのを。

蒸し暑いから、ビールの小瓶なんて一気にラッパ飲みしたいところだが、そこをじっと耐えて普段の1/3くらいのペースで舐めるように飲み進みながら状況を伺う。

とにかくワンオペであり、卵焼き鍋はもちろんひとつしか用意がないのだ。 卵を三個ボールに割り落として調味料を加えたらカシャカシャかき回し、じっくり丁寧に時間をかけて焼き上げるからこその、この店名物の逸品なのだ。

見てないフリして横目で、いったいひとつ焼くのにどれくらいの時間を要すのだろうかと観察したところ、約7分だった。 という事はつまりあと4つ焼くわけだから、30分弱はビールの小瓶と突出しのおからで過ごさねばならないという事をこの瞬間悟った。

カウンターに座るもうひとりはどうやら常連で、ヘッドホンからシャカシャカ漏れるリズムに合わせて時折足を踏むのでこちらの足にもその振動が来てはた迷惑である。

彼の巧妙なところは、店主がいましがた焼いたばかりの厚焼き卵第一号をテーブルに運ぼうと厨房から外に出た瞬間、自分の横を通り過ぎ様に「厚焼き卵ひとつ」と、ボソリつぶやいた事だった。 この時あと40分は何も注文できない事を覚悟した。

自分で自分を褒めたい。

この生殺しをたったビール一本で凌ぐことができたのだ。 ただ、すでにココで酒を飲む気分は失せており、シメにススろうと考えていた盛り蕎麦を堂々と、声高々に手の空いた店主へ注文した。 速攻食べて、一目散に次の店へ移り、呑み直そうという魂胆だ。

するとどうだろう。 まだ厚焼き卵の熱も冷めきらぬであろう連中もこちらの注文を聞くやいなや「俺らも注文しておくか」と、次々に蕎麦を注文しはじめたではないか。

我先に逃げる事すら許されないのか。

結局8人前のザルをワンオペでせっせと茹ではじめる店主の手際を、酒も無しに観察する事になった。 手持無沙汰でソバツユを舐めていたら、これがなかなか干し椎茸のダシがほのかに感じられて旨かった。

腹も減っていたしついやりすぎて、蕎麦が出てきた頃にはほとんどツユも無く、かといって「ツユください」という間柄も構築されていない故、蕎麦は蕎麦のみススル事になった。

これがまた旨いんだからくやしい。

茹であがった蕎麦をザルへ均等に盛る際、一本単位で量の調整をチマチマ、あっちのザルへこっちのザルへと几帳面している店主の背中が今日も目に浮かんでくる。

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