さる整体師の話
「脊椎の正しか者は病気せん」
寝不足の続いとる人に目ばつぶらせてから立たせたら、後ろにストンて転ぶ。 骨のねじれてしもうてから平衡感覚の無くなってしもうちょる。
「疲れ」ていうとは、なんでんかんでん、必ず、骨ン狂いになって現れてくるとさね。 背骨がはじめにして、体中のあらゆる骨に狂いの生じてくると。
顔のねじれた場合は、足首ばつこうて、まず骨盤ば直す。 骨盤と頭骨は相関関係のあるけんが、頭のゆがみの直ってくると。
日本は親が子ば叱るときに頭にゲンコツば落とすやろ? ばってん外人は尻ば叩く。 あいはやっぱ、相関関係のあるけん、骨盤にショックば与えたら脳のゆるむ。 尻ば叩くことによって西洋人は子供の頭ば締めたり弛めたり調整しちょる、そげんふうにオイドンは見とるわけたいね。
最近は落ち着きのなか子供の多か。
子供が泣いたりわめいたりするとは、親のしつけもあるばってんが、やっぱカルシウムの足らんとさね。 そげん子供には煮干ばかじらせとけば泣かんごとなると。
子供ん時から缶ジュースばガブガブ飲むでしょうが。 そいで平衡感覚の乱れてくるとさね。 大体、あの缶ちゅうとは、大人に対する分量じゃなかかて思うとですよ。 そいがアアタ、子供の小さか体に入るわけやけん、どげんしたって、自分で体ば壊すことになるとさね。
米でもよう噛めば、だんだん甘みの出てくるでしょうが、ちゃんと糖分の含まれとるわけさね。 そこへアアタ、やれナンジャカンジャ、ジュースで余計な糖分ばとるもんやけえ、安定感ののうなってしもうとるわけたい。
安定感っちゅうとはさ、臓器の安定感さ。 胃袋は甘かもんのイッペンにドサッって入ればストップしてしまうとさ。 アンコロモチなんかば3つぐらい食ってみんね、胃のほとんど満足に働かんごとなる。 食前に甘かもんば食えば食欲ののうなるやろうが。 あいは血糖値の上がるけんが、山のごと食うた状態と同じごとなるけんさ。 胃の錯覚ばおこしとると。
胃の動かんけん、臓器の働きのアンバランスになってから、体のいたるところがダルい感じになってくるわけさ。 要は、無駄なもんば摂りすぎよるっちゅうことさ。 分解するとに時間のかかってしもうて、近頃の人間はモノば考えるまで余裕のまわらんとじゃなかろうか、て考えよるところさ。
電車に乗っとったらはしゃぎすぎの子供のおるやろ。 あいは親の躾の悪すぎるとさ。 こっちが注意したら、「あの怖いおじさんが怒るからやめなさい」て、こうくるやろうが。 子供はアンタ、絶対自分が悪いて思わんとですよ。 お前が悪いけんやめろ、とは親が言わんとやけんが。 大きゅうなったら、どがん大人になるとやろうか?て思うとですよ。
親の躾が子供の骨ば悪うしとる場合もあるとよ。 こん前、受け口で猫背の子供の来たとさ。 背骨のまん丸になったら、腰の前に出る。 恥骨のこう上がって足の開くと。 そがん姿勢でおったら、アゴの前に出やすうなってくっとたい。 ゴリラんごとなると。
普段の姿勢の問題っちゅうよりも、親が偏食でしょうが。 親っちゅうもんは、自分の食いたかもんしか作らんでしょうが。 親が偏食の場合、どうしても子も偏食になってくるとさ。 そん影響がアアタ、母体におるときからあるわけやけん、こら子供はたまらんさ。
抱き癖で子供の体のねじれる場合もあるとさ。 親の好きな抱き方っちゅうもんは決まっとるらしかとさねえ。 子供の頭ば左胸に当てよるとさ。 こん抱き癖で肋骨の完全にねじれてしもうた女ん子のおったですよ。
抱いとかんば寝らん、ていう育て方ばしちょったとですよ。 夜も抱いて育ててしもうたけん、足の完全に曲がってしもうてさ。 早う治してやりたかばってん、いかんせん子供やけん、こっちの命令のわからんでしょうが。 息吸ってとか止めてとか。
息ば吸うでしょう、そして吐き出すと骨盤の開くとさ。 吸う時は肋骨の開く。 肋骨の開いたら筋肉の締まって骨盤の小そうなる。 っちゅうことは、肋骨に変形のできたら、骨盤にも変形のできる。 骨盤に変形のできたら、さっき言うたでしょうが、頭んねじれてしまうとですたい。
結局、さっきの抱いて育てたていうとは、甘やかしていうよりも、親ン甘えて思うとるとさ。 旦那も悪かと。 寝とるとき子供の泣けば「ウルサカ!」ていうやろ。 しょうがなかけん、抱いてあやすやろ。 そいが癖になってしもうたというわけさ。 「明日仕事だし寝たい!」ていうても仕方なかたいね、自分の子やけんが。
母親も悪か。 大体、神経の過敏かとさ。 神経の過敏か人は好き嫌いの激しかやろ。 大体、食うもんにあれがイヤ、これがイヤ、そがんこつでよか子のできたためしのなかとですよはっきり言うて。
子供ば作ることになったら自分で食べるていうことにも社会的な責任のでてくるていうことばはっきり悟らんばイカンとですよ。 大体がおろそかに子ば作りすぎよるですもん。 子供ば作るていう人ならば、自分の多少の犠牲ば払わんばいかんでしょうが。 甘いもんは食い放題、酒もタバコも呑み放題。 そがんやりかたで子供ば作ってから、そいが人間的な生き方ばいていわれても、そりゃ虫の良すぎる話ですよ。
だけんこん頃の赤ん坊はみんな肝臓肥大になっちょる。 有名な大学院の院長先生が耳打ちしてくれたとばってん、今の新生児はほとんど肝臓肥大て言いよった。
公表したら大問題になるですよ。 新生児が肝臓肥大っちゅうことは、母体におる時から有害なもんば選り分けざるをえんような状況に胎児が追い込まれちょるていうことになるでしょうが。 そしたら、そん物質は何か、っちゅうことになったら、こりゃ大変なことになるです。
そいからアレも心配かとですよ。 ほら、ベビーバギー。 あげなものに乗せるぐらいやったら、まだおぶったほうがいくらかよかです。おんぶのほうが振動もクッションもリズムもよほどよかです。 赤ちゃんの姿勢もおんぶのほうがよかです。 ベビーバギーに乗った赤ん坊は背中が丸くなってしもうとるでしょうが。 どうしても乗せるんやったら、背中に板でん一枚入れとくとですよ。 まあ使わんとが一番よかです。
日本人は食生活ば、鎖国時代とまではいかんでも、せめて明治時代に戻さんといかんとじゃなかろうか。 そげん思いよるとです。
以上、伊丹十三の『日本世間噺大系』より抜粋し長崎弁に変更。 面白いエッセイです。