2008年7月アーカイブ
閉店・・・
その居酒屋へは親友が連れて行ってくれた。
オイはまだ二十歳そこそこで、酒をガブ飲みしてただ酔えればそれでよかった。
その頃店の大将は40前で今よりだいぶ威勢がよかった。 「美味しい刺身を切ってちょうだい」と言った客のその一言が気に触ったらしく、顔に返り血を浴びながらピチピチの魚(マゴチ)をすばやくおろし、美しい刺身を作り上げた。 それを客の前にスッと差し出し「はい美味しい刺身お待ちぃ・・・・」とにらんだ。 いや、元々にらんでいるような顔をしているので実はにらんでいなかったのかもしれないが、それはさておき、隣に座っていたオイも肝を冷やした。 「マズイ刺身なんてウチにあるわけなかろうもん!」という気迫が覆いかぶさってきた感じ。
この店の一風変わった酒肴の魅力にどっぷりハマるのにそう時間はかからず、いつのまにか毎週のように通うようになっていた。 いつしか大将とも親しくなり、店がすいた時は2人で飲み、その足で近くのスナックに行き、朝まで飲んで、そのまま仕入れに同行したりもした。
古い常連さんに「キミ、こんなに美味しい料理を食べるときは帽子を脱ぎたまえ。 それが大将に対するマナーというものだ!」と怒られたときは「・・・まぁいいじゃないですか。 ウチはそんな堅苦しい店じゃありませんし」と言ってくれた。
「大掃除を手伝え」と電話があり、無理やり手伝わされたことが多々あった。
所持金が千円しかないのに腹いっぱい飲ませてくれたことも多々あった。
体調を崩し、長期にわたり休業したときは、本当に心配した。
店の主なのに酔いつぶれてそのまま寝てしまうときがあり、少し心配になったりもした。
月日が経つにつれ、店にあまり行かなくなった。 結婚すると独身時代のようなわけにもいかんし、仕事諸々の付き合いもあるし。 気がつくと、年に数回程度しか顔をださなくなってしまっていた。
それでもたまに、のれんをくぐると大将は怒ったような顔でニッコリと迎えてくれて、いい酒を飲ませてくれた。
この前大将から電話があった。 諸事情により店を閉めることになったという。 理由はきかなかったが、相当な理由があるに違いない。
昨日店の前を車で通ったらシャッターが下り、看板が取り外されていた。 せめてもう一度だけでも行っておけばよかった。
危篤?
「今回ばかりはもうダメかもわからんよ。」
と母から連絡があった。 じーちゃんだ。
じーちゃんは93歳でついこの前ビールを一緒に飲んだばかりである。
そのじーちゃんが病院に運ばれ、今回ばかりはヤバいらしい。
もう聞き飽きた。 これまでも、じーちゃんは幾度となく危篤、危ないと言われ続けており、初めのうちは真に受けてあわてたりしたが、なんてことはない、面会するとピンピンしているではないか。 周囲が大げさすぎるのだ。 すこし風邪をひいたりするとすぐ危ないと言われてしまうのだ。
そりゃ93歳だし、体のあちこちがどうかあったりもするが、本人が元気だと言うんだから。
この前会った時も朝から晩までカマをといでいたし、話をしてもしっかりしていいた。 だから今回も大丈夫だろうと安心して病院へ向かう。
「おー、オイか。」
とじーちゃんは迎えた。 ホラやっぱり危なくない。 母によると、ここ何日か食事を残すので、もしかしたらと思って...という話だ。 あーめんどくさ。
結論。 じーちゃんはまだ大丈夫、以上。
断、乳。
次男が生まれてから一年少し経過しているという事実に戸惑いをかくせない。 一日が、いや一ヶ月が、いや、一年が早い。 年をとるにつれて少しずつ人生が早送りになっているような気がしてならない。
同じ世代の人々と会話してみても「早っ、また盆がきやがった」とか「もう一年半分終わっちゃった。 この前正月が来たと思ったらいつの間に・・・」という話をよく聞くので、結構皆そう感じているようだ。
どっちかっていうと、ヒトよりサルに近かった次男はずいぶんと人間らしく成長した。 ひとりでお座りができたり、つかまり立ちができるようになった。 この調子だと、そろそろ歩くのだろう。
初めて寝返りをみせた時の感動は今でもよく覚えているが、ここでもうひとつ、次男を待ち受ける試練があるのだ。
それは断乳。 乳を、金輪際断つのである。
息子はこの世に生を受けてから一日たりともおっぱいを欠かしたことがない。 離乳食を食べてはいたものの、ちょっと機嫌が悪くなるとおっぱい、眠くなると、おっぱい。 とにかく食料ていうかなんていうか、もはや次男にとって、精神安定剤のような役割を、嫁の乳は果たしていたのだ。
それがある日突然、なんの前ぶれもなく飲めなくなってしまうという次男に同情を禁じえない。 「よく見てみろよ、まだ彼は乳児だ。 あと2、3ヶ月は飲ませてやりなよおっぱいを。」
と、なんとかして次男とおっぱいのつながりを維持させてあげたいオイは嫁に言うが「それは優しさではなく、甘やかしやぞこら・・・」と、嫁の断乳に対する決意は熱く、固い。 母乳をあげていないオイにはこれ以上踏み込めない何かがある。
今まで2人のわが子に断乳をさせてきた嫁は、もはや断乳に関してはいっぱしのモンである。 今回の次男に対する断乳もスムーズに終えさせようとかなり気合が入っている。
「何故、おっぱいを止めねばならんのか。 出るものは、ずっと飲ませればいいだろうに。」という素朴な疑問を嫁にぶつけてみると、それでは「噛む」ことをしないのでダメとか、虫歯になりやすいとか、他にも色々な理由をまくし立てる。
長男も長女も、たった一日できっぱりとおっぱいを断つことができた。 はじめはおっぱいをねだるが、泣いてもわめいてもおっぱいを飲ませてもらえないとわかると、キッパリとあきらめるのだ。 わが子が泣き叫んでいるのにおっぱいをあげることができないということは母親にとっても大きな苦しみなのだがそこをぐっと我慢するのだ。 母子共に大変だ。
夜中、次男の泣き声で目が覚めた。 かなり盛大に泣いている。 いつもならば、ここでおっぱいをくわえさせると、何事もなかったようにまた眠りにつくのだが、なぜだか今日はおっぱいをもらえない。 なんでか? おれ、怒るもんね、という怒りにも似た叫びをあげている。
嫁は前もって用意しておいたコロコロミニおにぎりを差し出すが「こんなもん食うか、ペシッ」とはねのける。 麦茶を差し出してみると、それはチビチビと飲む。 のどが渇いていたのだ。 おっぱいは食べ物でありながら飲み物でもあるのだ。 次男は落ち着きを取り戻し、再び眠りについた。
1時間後またおきた。 麦茶を飲ませてだっこしてお尻をトントンしながらゆっくりゆらしているとまた眠った。 1時間後またおきた・・・
という風に、断乳一日目は断続的に目を覚まし、母子共にろくに寝られなかった。 オイも寝れなかった。 長男、長女は何事もなかったかのようにスヤスヤ寝ていた。
今までの経験上、断乳二日目になると、もはやおっぱいのことはすっかりと忘れ、ご飯をモリモリと食べ、ぐっすりと眠るハズなのだが、次男はよほどおっぱいに執着があるらしく、おっぱいをねだりつつ、夜もなかなか寝ようとしない。 あまりにもぐずり、寝ないので、母は心が折れ、おっぱいをあげてみようかとも一瞬考えたが、それをやっちゃ、これまでも苦労も水の泡だし、なによりも次男の為にならない。 心を鬼にして、おっぱいなしで何とか寝せようとガンバル。
嫁の目の下にうっすらとクマが見えはじめた断乳四日目、ついに次男はおっぱいを忘れることができた。 彼はもはやおっぱいを必要としない。 食物でエネルギーを得るのだ!
おいしいご飯をがんばって作るので、ワシワシと食べて大きくなってください。
※嫁のおっぱいは吸われないためにカチカチに張り、痛い痛いと専用の器具でしぼりだしている。 おっぱい当人的にも、突如始まった断乳に驚きを隠せず、生産量の調整ができないのだ。 しばらくは必要なものだと母乳をガンガン作り続けるが、やがて需要がない事に気づく。
市場を案内しアゲマキ購入
晩酌中に携帯が鳴る。
「おーオイ、元気?」と古い友人の声。 かなり久しぶり。
酒の勢いも手伝い、つい話がはずんでしまったが、オイは今晩酌中なのだ。 オマエと長々話しているヒマはない。 「じゃ、またね」と切ろうとすると「うーん、長崎に行こうと思うんだけど、なかなか時間がなくてねぇ、じゃたまいつの日か。」 と捨て台詞を吐いて、彼は携帯を切った。
あくる日の早朝、携帯が鳴る。 昨晩の男からだ。 「あーオイ、おはよ。 あのね、もう時間がないんだよ、飛行機とれたんで、今からそっちに行くよ、じゃ」一方的に切られた。
昨晩「なかなか時間がなくてね」と話したばかりなのに何を当然血迷ったのか、これから長崎に来るそうだ。 休日だしゆっくりしたいし、子供らと遊ぶ予定もあるのに何でまた唐突に…。
彼は東北在住。 長崎空港に到着したと連絡があったので迎えにいく。 車中の話では、仕事が忙しくてなかなか休みがとれないためにポッと空いた時間を有効活用するそうだ。 この前も突如富士の麓にある隠れたお宿に泊まりにいったのだとか。
「長崎で、なんか面白い所ない?」
うーん、グラバー園とかそういうこと? 「じゃなくて」 そうか……………。 オイにとって、市場は遊び場だけどねえ。 面白いと思うけどねえ。 「じゃ、その市場を案内してよ」という。
魚市場は早朝に行かねば面白くないし、今の時間だったら長崎市中心部にある築町市場なんか面白いと思うけど。 っていうかオイはそこが好き。 どうっすかね。 今晩はどうせ飲みに行くんだよね? 築町近辺にはいい飲み屋があるもんで、そこもせっかくだから案内しておこうか。
梅雨で魚が少ないのだろうか、いまいちいつもの活気が感じられないような気がしたが、もう10時だし、こんなもんか。 「どーですかキミ、からすみとかも売ってますよ。 東北と比べて、どーっすか。 ほらそこ、鯨カツとかも売ってますよ。」と鯨カツを購入し、築町を歩きながら案内する。
「そこの海産物やさんはね、イーカツブシ売ってるけどいかが? ほかにもイロイロあるよ。 ほーら、この胡麻ドレがまたウマイんだ娘が好きでさ。」 と、ついうっかり、濃口醤油とドレッシング、削り節を購入してしまう。
「ここをまっすぐ行くとね、魚屋さんがいくつかあるんだよ。 ほーらイワシが沢山並んでいる…うーん、キレイなイワシだね、じゃ、これください。」イワシを購入した。
「その角を曲がるとまた魚屋さんがあるんだよ。 ほーら、サザエとかも売ってるし、オ、好物のアゲマキが売ってやがる、えーいしょうがない、一山ください。」アゲマキを2kg購入。
「いやーきみ、どうだね長崎の市場は。 何、面白いも何も、オイの買い物に付き合わされただけじゃないかだって! うん、そうとも言えなくもない。」
オイ家にてアゲマキをバター焼きにして、昼間っから、東北人と飲んだ。 夕方から寿司屋に行って、その後銅座で朝まで飲んだ。 まあまあ楽しかった。
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