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2007/03/26

レバテキ

rebateki

激安居酒屋にて」で登場していただいた幹事くん(以下T氏)は、味オンチでもなければボンクラでもない。 たまに、ものすごいお店を教えてくれたりもする。

とある日の18:00を少しまわった頃、携帯が鳴った。 T氏からである。「どや、どや、飲むけ?」急に電話かけられて、どやどや飲むけなんていわれても、なんのことだかサッパリワカラン。 しかもこの人まだ18時なのにすでに出来上がっている様子。 相当飲んでいる。

「えーっと、ナンスカ?」一応用件を聞いてみると、どうやら今から一緒に飲みに行きたいとかいう話のようだ。 なんでもすごくウマイ『トン焼き屋』があるのだそうな。

せっかくのお誘いだったが、この日、オイは家族のためにチキンカレーを仕込んでいる最中だったので、キッパリとお断りさせていただいた。

数日後、再びT氏から連絡があった。 今回は午前中で、しかもシラフでの電話である。 「あーオイくん、この前話したトン焼き屋に行ってみない?」

その日はたいした用事もなかったので、ご一緒させていただくことにした。 しかしトン焼きって豚焼きのことでしょう。 焼き鳥屋ばかり通うよりもいいかもしれん。

そのお店は町外れの住宅地にあり、周囲に街灯が少ない分、店の赤チョウチンがやけにボンワリと輝いて見えた。 普通のこじんまりとした焼き鳥屋さんみたいな店構え。 「ガラガラガラ、タイショ、コンチハ。」T氏はオイに先立ち、いかにも常連風に入店する。 その後にオイも続く。

短く刈り上げた白髪が綺麗な大将はおそらく70代である。 しかし背筋はピンと伸びて、表情は穏やか。 清潔な作務衣姿が様になっており、トン焼き屋の大将には似つかわしくない。 「アラ、このところ毎日だねー」と、T氏に親しげに声をかける。 続けて「ホラホラ、寒いから早く入って引き戸を閉めてくださいよ。 お客さんの体が冷えちゃうよ。」と、早く入店し、入り口を閉めることを促す。 カウンターに座る常連さん達への心配りである。

嬉しいことにカウンターがちょうど2席空いており、そこへT氏とオイは座る。 T氏がビールを注文後、いつものように、まくしたてるように、ダーっと一気に食べたいものを注文する。 が、注文を聞いてくれるニイチャンがまだこっちに来てないので「ちょっと待ってね」と大将に言われる。 慌てんな、常連なんだろ、T氏。

「ウォーイ、お待ち。」と、イイ感じに色落ちしたインディゴのバンダナをワンピースの刀持った人のように目深に頭に巻き上げた、多少気合が入っている風のニイチャンが現れる。 T氏は彼に「ヨオ、元気」と声をかけた後、先ほどの注文を繰り返して伝える。 さらに「ニイチャン、あんたにもビール一杯おごるよ」と、ニイチャンにも景気付けの生一杯を注文する優しげなT氏。 「あーあざーす」と、それにとってつけたような礼を言うニイチャン。

よく冷えた生ビールはすぐに運ばれてきて、突き出しのイカの醤油風味塩辛をつまみながら、我々が注文した串を作る工程を眺める。 いや、眺めたかったのだが、隣のT氏がショーもない話をベラベラしゃべってくるものだからなかなか集中して大将の丁寧な仕事を眺めることができない。 少しイラついたオイは、なんの脈絡も無く「Tさん、見てくださいよあの豚バラの美しさ。 フワー、脂肪の層が素晴らしいッスヨ。」と、大将の仕事を見るように促す。

ここで気づいたのだが、突き出しのイカ醤油風味塩辛がすごいウマイ。 突き出しがウマイ店にハズレ無し。 その逆もまた然りというオイの持論があるが、この店はイイぞ、ウマイぞ、という期待感が高まる。 イカの塩辛は、このように作る(イカの塩辛)わけだが、ワタを塩漬け後、流水で洗い、その後醤油、酒、みりんを合わせた漬け汁に24時間漬け込んでおいて、それをイカの身に和えたものがイカの醤油塩辛である。 この店の場合、イカの食感、新鮮さからして、今さっきワタと身を和えたハズである。 あえてそうしているハズなのである。

「このイカ相当ウマイですよね」とT氏に伝えると「ウメェ、これもうひとつ注文しようぜ」と言う。 同感。

この店の串焼きスペースは非常に短い。 どう長く見積もっても80センチ程度であり、店の入り口横窓際に設置されている。 串焼きの作業は大将以外はやらない。 もっと言うと、大将は、串焼きしかしない。 客の注文も聞かない。 「大将、生もう一杯」なんて目の前で言ってもシカトされる。 注文は、バンダナニイチャンに伝えなければならない。

お店は狭いが区画の取り方が巧妙な為、奥に座敷が2部屋ある。 カウンターの真後ろには小さく小奇麗なカウンターがあり、女性客が4人座っている。 満席の店内だが、串を焼く場所は狭い。 でも串焼きを待ちすぎてイライラしているお客はおそらく見当たらないところを見ると、大将が効率よく串を焼いているのだろうなという憶測が立つ。 目の前で大将が串を焼いている様子をさっきから眺めているが、さほどイソイソ焦っている様子もなく、ズラリ並べられた串を、炭火の上で優雅に転がしている。

「はいお待ちどうさま」串がきた。 ハツとカシラである。 ビールを改めて数回グビグビやり、ハツをがぶり。 ハツとはハート、すなわち心臓であり、プリプリとした食感がステキだ。 しかもこの店のハツは新鮮なのであろう臭味がまったくなく、そして一切れ一切れが大ぶりである。 塩加減もちょうどよく、外側はカラリと焼けているが、噛み千切ると透明な肉汁があふれてジューシー。 こんなウマイハツ、食べたことがない。 ハツ1串中、2切れのハツを食べて感動しているオイをよそに、T氏は次々と串からハツ、カシラを取り外し、コロコロと皿に散りばめる。 それを箸でつまんで食べるのだ。 「このほうが早いで」だという。 オイは別に急いでトン焼きを食おうとは考えていないので、せっかくの串焼きだし、串から歯でしごいて食べたい。

「早く食わな、次来るデ」とT氏。 彼の皿を見ると、すでにハツとカシラは跡形もない。 早っ。 別に昼飯を食いに来ているわけではないのだ。 飲みに来ているわけだから、串焼きは、酒の肴として、ゆっくりと味わいたい。 もっと言わせていただくと、串を一気に注文するのはやめていただきたい。 冷めてしまうではないか。 ゆっくり飲もうぜ。

串の美味しさをそれぞれイチイチ語っていてはキリがないので割愛させていただくが、どれも本当に美味しい。 豚以外だって野菜だってなんだって美味しい。 こんな美味しい串焼き食べたことがない。 もうビールなんて飲んでらんない。 焼酎一本と氷ください。

鳥の串だってある。 鶏レバをレアに焼いてもらって焼酎を飲りながらようやく店内を見回す余裕がでてきた。 これといって何の変哲もない焼き鳥屋然とした店内で、木彫りの熊など余計な調度品は一切見受けられない。 あとで大将に聞いた話では、この建物、元は民家なのだとか。 何っ! 店内に張られた張り紙のなかに『牛レバー刺』を発見。 「ニイサン、レバ刺2つおねがい」

本能のままにレバ刺を注文したオイにとなりのT氏は言った。 「オマエラッキーやなー。 この店はな、レバ刺あっても張り紙なんてせんのや。 だからレバ刺があると知ってる客しか注文せえへん。 それをな、今日はわざわざ張り紙で大々的にレバ刺があると公表しているわけや。 これがどういう意味かわかるか? おまえ。 これはな、今日のレバ刺には大変な自信があるっちゅーことやねん。 いわばレバ刺オススメなわけや。 2人前注文したのは正解やでしかし。」

だ、そうである。

しばらくして到着したレバ刺しは、テカリからして普通のとは違っていた。 色は赤というかほんのりピンク色をしており、店内のスポットの光によって輝いている。 適度な厚みに切られたそのレバ刺しを箸でつまむと、レバ刺しをつまんだというよりも、まるでピチピチのハマチの刺身をつまんでいるかのような抵抗感というか強い弾力を感じさせる。 上質のごま油と塩を少しつけて口に入れると、またもや臭味がまったくない。 レバ刺しが甘い。 食感としてはもはやプリプリである。 美味である。

レバ刺しをもうひとつ注文しようかとも考えたが、やめた。 己の欲望のままレバ刺しを注文し、食べるのはよいが、これほどのレバ刺しならば、より多くの客に食べていただきたいと思う。 独占は悪である。 レバ刺しが嫌いな人だって、これを食べてみると価値観が変わるはずである。 大将、うまいよこのレバ刺し。

この店は獣肉だけではない。 何と魚もうまいのだ。 普通、串焼き屋にある魚の刺身といえば、メニューの数を増やしたいがためだけに置かれているといった感じのものが多く、クオリティーを追求するのはヤボだという、もはや諦めの境地に立たざるおえないという印象を拭いきれないのだが、ここでは魚もウマい。 タチウオの刺身がウマイのだという大将の、言われるがままに注文してみたそれは、盛り付けよし、鮮度よし、味よしの3拍子そろったものであった。 穂シソをセンスよく飾った刺身は美しかった。

というように、この店を絶賛し始めると、キリがないのでここで今回のシメとさせていただきい。 このトン焼き屋で、一番感心したメニューはというと、それは『レバテキ』であった。

レバテキとはレバーステーキの略で、そういうとなんだか洋風のものを思い浮かべてしまいがちだが、これは和風である。 新鮮な豚のレバーの塊に塩コショウで下味をつけたあげく、絶妙の炭火で表面を焼き上げる。 そしてそれをほどよい大きさに切った後、皿に盛り、周囲に醤油とみりん、酒、ザラメを調合した甘たれを注ぎいれる。 そして皿のわきにからしをひとつまみ配置すれば、それだけでレバテキのできあがりである。 からしをこすりつけながら、中身がレアなレバーをほうばると、甘辛いたれの味とレバーのプリプリした食感、風味が渾然一体となり、飲める飲める。

とりあえず3皿食ったこのレバテキは550円である。 久しぶりの興奮した酒肴であった。 しかしよく考えてみると、鶏レバーの煮付けだって、甘辛な味で美味しいんだから、レバーに醤油とみりんの味付けが合わないワケがないのである。

そんなレバテキをどうしても忘れられず、我が家で作ってみたのがtopの写真である。 トン焼き屋では、この写真よりもだいぶ見た目も美しいし美味しいのは事実であるが、テイストはわかる。 今回は新鮮な豚レバーを入手することができなかったので、あらかじめカットされた豚のレバーを使用して作ったが、これでさえ、我が家の酒肴の定番になりそうな勢いである。 オススメします。 ぜひ作ってみてください。

“レバテキ” への1件のコメント

  1. より:

    はじめまして、長崎市在住の鉄と申します。
    楽しく読ませていただいています。
    ところで、できればこのトン焼き屋さんが
    どの辺りにあるのか教えていただけないで
    しょうか?
    宜しくお願いします。

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